先日、訪問治療の帰り道、ふと立ち寄った八百屋で金柑を見つけたんですよ
冬の終わりが近づくと、店先に並ぶこの小さなオレンジ色の実。懐かしくなって、思わず手に取ってみました。
金柑といえば、子どもの頃、ばあちゃんがよく甘露煮を作ってくれたんです。
風邪をひいた時には「これを食べれば喉にいい」と言って、ハチミツ漬けを出してくれたりもした。
あの頃は正直、甘ったるくて苦手だったんですけどね。
でも、大人になると不思議と食べたくなる。あの優しい甘みと、皮のほろ苦さがたまらないんです。
そんなことを思い出しながら、患者さんの家に向かいました。
その日の訪問先は、脊柱管狭窄症を抱える80代の女性。
「立ち上がるのが怖い」——患者さんの本音
彼女は数年前から腰の痛みと足のしびれに悩まされていて、歩くのが億劫になっていました。
最近は外に出るのも減って、家の中でじっとしている時間が長くなったと言います。
「もう歳だから仕方ないよね」
そう言いながらも、表情にはどこか寂しさが滲んでいました。
でも、俺は思うんですよ。
脊柱管狭窄症だからって、すぐに「できない」と決めつける必要はないんじゃないかって。
もちろん無理は禁物だけど、「動ける範囲で動く」ことが、何よりの治療になるんです。
「最近、何か楽しみはありますか?」
そう聞くと、彼女は少し考えた後、「昔は庭の金柑の木の実を取るのが好きだったんだけどね」と言いました。
実は、彼女の家の庭には立派な金柑の木があるんです。
でも、足が悪くなってからは収穫することもなくなり、いつの間にかその存在さえ忘れかけていたらしい。
小さな一歩が未来を変える
「じゃあ、一緒に庭に行ってみませんか?」
そう提案すると、彼女は「えっ?」と驚いた表情をしました。
「歩くのが大変なら、杖を使いながら、ゆっくり行きましょう」と伝えると、少し考えた後、「やってみようかな」と頷いてくれました。
玄関を出て、慎重に足を踏み出す。
最初はおっかなびっくりだったけど、俺がサポートしながら進むうちに、彼女の顔には少しずつ笑顔が戻ってきました。
そして、庭の金柑の木の前に立った時、彼女の目がキラッと輝いたんです。
「こんなに実がなってたのね」
そう言いながら、小さな金柑を一つ手に取りました。
「久しぶりに食べてみようかしら」
そう言って、彼女は金柑をそっと口に運びました。
「甘酸っぱくて美味しい」
その表情を見て、俺は思ったんですよ。
「歩くのが怖い」と言っていた彼女が、たった10分足を動かしただけで、こんなに生き生きとした顔になるんだから、やっぱり人間は「動くことで活力を得る」んだって。
あなたの“金柑”は何ですか?
俺たちは年齢を重ねるにつれて、「もう無理かもしれない」と思うことが増えていきます。
でも、本当にそうでしょうか?
彼女が庭に出たことで、小さな幸せを思い出したように、俺たちの周りにも「ちょっとした行動で変わること」があるはずなんです。
あなたにとっての「金柑」は何ですか?
昔は好きだったけど、いつの間にか遠ざかってしまったもの、ありませんか?
もし思い当たるものがあったら、ちょっとだけでいいので、また手を伸ばしてみてください。
それが、あなたの心と体を元気にする“原則”になるかもしれませんよ。
コメントを残す